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Yukio Tanaka

2017年、日本人採用プログラム(DFSP)ミッドキャリアとして世界銀行入行。ナイジェリア、スーダン、マラウイ、スリランカ、イラクなどアフリカ地域を中心とした各国の水資源インフラ融資案件や技術協力を担当。専門は水資源管理、治水、灌漑。世銀入行前は東京大学助教、講師として研究職キャリアを積んだ後に国際協力機構(JICA)に転身し地球環境部、ネパール事務所にて国際協力実務に従事。東京大学農学部卒、同大学院農学生命科学研究科修士課程修了、同博士課程退学。博士(農学)。

第57回インタビュー 2021年3月23日

田中幸夫世界銀行 水グローバルプラクティス 東部・南部アフリカ地域担当 上級水資源管理専門官

「プロとして現場に帰ってくる。農村が抱える問題に何か貢献する。」 バングラデシュの旅で胸に抱いた志を貫き、東京大学の教員からJICAの総合職へ、そしてまた裸一貫で世界銀行の専門職へと、水のプロとしての人生を自ら切り開いていく田中さん。 物腰は静かな水面のようでありながら、彼が行くところには水が豊かに注ぎ、その勢いは止まるところを知らない力強さを感じる。「上級水資源管理専門官」の言葉の響きからは想像もつかない、冒険と挑戦と勇気に溢れたキャリアを持つ、水の専門家の素顔に迫る。

人生の方向を示したのは、バングラデシュ1カ月の旅

もともとは、漠然と環境問題に興味を持って大学に入学し、外国人留学生と仲良くなり、彼らの国に行ってみたくなりました。そこで大学1年生の終わりの春休みに、初めての海外旅行でバングラデシュに1カ月滞在したのが、開発を目指すきっかけになりました。働き者でも、農業生産から得られる賃金は僅かで、あらゆるものを犠牲にして子供の教育費を捻出して貧困からの脱却を図る人々の姿を目の当たりにし、頑張った人には然るべき報いがある社会ができるべきだと、それを実現するためにプロとして帰って来たい、との思いを胸にバングラデシュを去りました。

東京大学では3年次から専門分野を決めるのですが、私は農学部の農業土木と言われる分野に焦点を定めました。学んでいくうちに、途上国の農村の発展を阻んでいるのは生産性の低さであり、その原因として農業生産のための水が不足していたり、水を配分するシステムが整備されていないなどの問題があることに気づき、図らずも水が自分のキャリアの中で大きな柱になっていきました。水の分配制度などは社会的なものなのですが、例えば「どのぐらいの水がその地域にあり、どのぐらいが消費されているか」といった情報は工学的なアプローチで分析する必要があります。そこで博士課程からは対象を国際河川を巡る国家間の水争いに広げ、かつ工学的アプローチを取り入れ、宇宙から地上を見て、その地域の植物の繁殖状況や水の利用状況を分析するという、衛星リモートセンシングを用いた研究に取り組みました。

学生から大学教員に

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ルワンダ・キガリにてNile Basin Initiativeのメンバーと。

ただ、現場の問題を見ずに頭でっかちになりたくなかったので、修士と博士課程の間に1年間、国連環境計画(UNEP)でインターンとしてフルタイムで働きました。バンコクの事務所でプロジェクトマネジメントをしながら、現場を経験した上で博士課程の研究を始めました。

そんなわけで27歳まで学生をやっていたのですが、途中で、思いがけず自分にとってぴったりな助教職の公募があり、運よく採用されたため、2007年から2012年までの5年間、東京大学大学院新領域創成科学研究科・国際協力学専攻(2008年以降は総括プロジェクト機構「水の知」(サントリー)総括寄付講座と兼任)で教育と研究に携わりました。

また助教時代には、学生時代から有志でやっていた水勉強会を発展させた「東大水フォーラム」の設立・運営に携わりました。水には、飲用水、農業用水、洪水、国をまたぐ国際河川問題など様々な側面があり、各分野の研究が相互に緩く関係しています。そこで、当時東大に水に関する寄付講座を設立していたサントリーと連携して分野横断的に研究者同士でセミナーを通して情報交換し、書籍を出版したりしました。この経験を通じて横方向に水に関する知識体系を広げたことが、結果的に後のキャリアにおいて、灌漑のみにとどまらない、水に関する幅広い分野を扱う素地となりました。

プレイヤーを目指して転職

大学の仕事はとても面白かったのですが、研究という性格上、過去に起きた事象(水争い)の事後検証が中心で、この道を志した時の「プロとして現場に帰ってくる」という思いが満たせないことへのフラストレーションも感じていました。私は人生の岐路に立った際に水辺を見ながら沈思するという習性があるのですが、教員生活5年目に差し掛かった頃、出張先の京都で鴨川のほとりで数時間熟考した末に「やらずに一生後悔するよりも、やはり国際協力のプレイヤーを目指そう」と決め、国際協力機構(JICA)の中途採用募集に応募し、総合職としてJICA職員になりました。

JICAでは水に関する部署に配属され、アジアを中心に様々な国の水資源管理や洪水対策、上水道案件などを担当しました。それまで大学で身につけてきた理論的知識を土台にしつつ、現場ベースの知識を山のように学ぶ日々で、文字通り水を得た魚のように現場を駆け回り、先方政府と交渉や、技術文書の読みこみ、そして不足知識のアップデートに明け暮れました。

ちょうど東日本震災から10年が経ちますが、防災事業はJICAで携わった業務の大きな柱でした。チュニジアやフィリピンなどの個別治水案件に加え、2015年3月に第3回国連防災世界会議が仙台で開催され、その企画・準備に携わりました。そしてその翌月にネパールで大地震が起きました。私はもともと5月からネパールに赴任予定だったので、会議後最初の大きな災害として世界の注目を浴びる中、ネパールに飛び込み、日本政府による巨額の復興支援パッケージの組成に携わりました。

さらに水を極めるため、世界銀行に入行

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イラク出張中は外出時常に防弾ベストを着用します。

JICAでは現場の仕事に従事するという自分の中での目標を達成できて、手応えを感じていたのですが、当時のJICAの人事制度では、継続して水分野を担当するというキャリアパスは難しく、そして自分自身はまだ専門分野である水を極められたとは思えませんでした。そこでJICAで培った現場経験を活かして、さらに水の専門知識を深められる機会を模索し始めたところに、世界銀行の日本人採用プログラム(DFSP)のミッドキャリアのポジションの募集がありました。職務内容を見てみると、自分のために準備されたようなポジションで、世界銀行の知人からもまさに私の専門性が求められるポジションだと聞き、応募したところ採用され、ネパールから世界銀行本部のあるワシントンDCにやってきました。

世界銀行では、オペレーション部門で、プロジェクトサイクルの全てに関わる仕事をしています。まず対象国の水セクターをレビューしてそれをレポートの形にまとめ、課題があればプロジェクトを策定し、プロジェクトの承認が下りたらそれを実施するというのが1つのサイクルですが、国別にこのサイクルの中の異なる部分を担当しています。例えばエリトリアとボツワナでは国レベルのセクター分析をし、ナイル川委員会(ナイル川流域の10カ国による平和的な水利用を調整する機関)の技術支援プロジェクトはもうすぐ承認が下りる段階、ナイジェリアの灌漑整備案件は実施段階の佳境を迎えています。

本来、私の担当は東・南アフリカ地域なのですが、世界銀行ではクロスサポートと言って、部署を超えて様々なプロジェクトチームに参画することができます。特に私の場合は、入行当初担当案件が少なかったので、多くのチームリーダーに会って自己紹介して、社内営業してどんどん参加しました。その中でも、博士論文の研究テーマであったイラクの水資源案件に携われたのは非常に幸運でした。最近は担当案件をアフリカに集約できてきましたが、これまで自分の携わった国のフォルダを数えてみたら、24カ国もありました。

培ってきたものを総力戦で

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ナイジェリア・ザムファラ州にて。灌漑プロジェクトに不安を抱く受益住民100人以上に囲まれながら、事業内容と便益の説明をしました。

世界銀行では、今までやってきたことの全てが役に立っているとも言えますし、培ってきたもの全てを、総力戦で出さないと生きていけないとも感じています。既往研究や文献を咀嚼して整理すること、それらを踏まえた上での状況分析だけでなく、GISやリモートセンシングなどの技術を理解していることはとても役立っています。例えば日本では技術的な分析は開発コンサルタントが行い、援助機関職員は上流の方針を決めるという役割分担がなされています。でも世界銀行ではそれが柔軟に運用されており、かつ提案力が歓迎される文化があるので、日本であれば開発コンサルタントがするような技術的分析や提案も世界銀行では職員が積極的に行い、それが評価されています。またJICA時代に培った、途上国政府との駆け引きなども間違いなく必要な技能です。

先方政府とやり取りする際も、技術的なことも政策的なこともわかっていることで相手を安心させられるという意味で、今まで培った全ての技能が役立っています。

世界銀行でしか味わえない醍醐味とは

醍醐味としては、1.先方政府と本腰で議論できること、2.個別プロジェクトだけでなく、上流の政策面にも関われること、3.世界中のリソースを活用できること、が挙げられると思います。やはり世界銀行では、個々人の担当領域がシームレスである分、本人さえやる気になれば、ワシントンDCにいながら先方政府と携帯電話やテキストメッセージで日々やり取りし、些細な相談に乗ったり、逆に提案したり、形式的ではない関係を築けるのが大きな魅力です。それに相手政府も世界銀行には耳を貸してくれることが多いため、ダムを作るといった個別案件から発展して、大枠の政策についても議論できる点にもやりがいを覚えます。さらに、世界銀行のプロジェクトでは世界中の専門家リソース(民間企業や研究者など)を活用でき、日本国内にとらわれずに適材適所のリソースを割り当てられるという面白さがあります。

「パスをもらったらシュートを打て」

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個人的なチャレンジとしては、多くの日本人職員は既に留学や海外経験が豊富な中で、私はずっと日本の大学でやってきたので、日々英語で仕事することは大きなハンデです。それは普段から極力準備し、メンターをつけたりして努力しています。

世界銀行入行当初は、最初はどこからも声がかからなくて、多くの人に会っても反応も良くなく、もうどうすればいいんだと鬱々とした日もありました。そんな中で励まされたのが、当時ジョージワシントン大学バスケットボール部にいた渡邊雄太選手でした。彼は類稀なる才能に恵まれていますが、それでもNBAへの挑戦は順風満帆とは言えず、日本人としての強みと弱みを分析し尽くした上で常に努力と挑戦を続け、NBA選手としてのステップアップを続けてきました。次元こそ違いますが、彼の置かれた状況は世界銀行職員にも通じるものがあるんです。自己分析して力を伸ばし、どんどんアピール・挑戦していかなければ生きていけない。

日本人の多くは黙々と努力することは得意ですが、それを前面に押し出すというのはあまり得意ではありません。しかし、やはりそれだと国際社会では生きていけないという点で、バスケットボールも世界銀行も同じです。「パスをもらったら逃げずにシュートを打て」というのは職場の大先輩でありバスケ愛好仲間でもある西尾副総裁の言葉ですが、至言だと思います。どうしても逃げたくなる自分がいますが、そういう時は、「あれほど才能に恵まれた渡邊選手でさえあんなに頑張っているのだから、自分はもっと頑張らねば」と自らを奮起させています。

将来のビジョンは

私の分野は、持続可能な水利用、洪水の予防、農業の生産性向上など、やるべきことが世界にたくさんあるので、それを粛々とやっていくっていうこと自体にやりがいを感じ、もっと様々な国で取り組んでみたいと思っています。特に、今はワシントンDC本部にいますが、やはり現地事務所にいると、よりその国に沿った協力や支援ができるので、現地事務所勤務も魅力です。

一方で、途上国自身も変わっていて、必要な支援内容も変わってきています。今後どのように支援するのか、世界銀行のような公的支援が良いのか民間セクターからアプローチすべきかなども視野に入れて考えています。さらに日本に対する思い入れもあり、世界銀行で培った知識を、日本の国際協力に活かしたいとも思います。要はやりたいことがたくさんあり過ぎるのですが、まずは目下の課題に取り組みながら、時々どこかで立ち止まって、また水辺を見ながら「何をすべきなんだろう」と考えたいと思います 。

世界銀行を目指す人へのメッセージ

人生の方向性の決め方と、方向転換の仕方、という2つの側面からメッセージを送りたいと思います。まず人生の方向設定については、「何を勉強すれば良いか」という相談をよく受けますが、自分の勝負する分野との出会いには運命的な要素が多分にあり、一概に何に取り組めばいいとは言い難いです。ただ、それと出会うためのアプローチの一つが、インプットとアウトプットの両方をバランスよくやることだと思います。本を読むなどして情報を得て咀嚼するのがインプットで、実際に現場に行ってみたり人と議論したりするのがアウトプットです。この両者の反復を意識的に続けることで取り組むべき課題が徐々に見えてくるのではないかと思います。私の場合は、最初灌漑に錨をおろし、そこから水の別のところに知識体系を広げ、自分の領域を広げていきました。

そして方向転換の仕方については、研究者だから大学教授を目指さないといけないとか、一度金融業界に入ったからずっと金融とか、世間一般で言われる定番の道というものがあると思いますが、それに囚われすぎる必要は全くないと思っています。自分自身にとって一度限りの人生、別に東京大学の教員がJICAの総合職員になってもいい。周りと違うことをやる分苦労も多いですが、それはそれでかけがえのない経験ですし、むしろその経験が私の武器を増やしてくれて、結果的に人と差別化できているようにも感じます。要所要所で転ばぬ先の杖を整えながら、少しずつ自分の未知の領域に挑戦されてみてください。

 

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