Eiko Sato

Eiko Sato

ハワイ大学卒業後、コロンビア大学ティーチャーズカレッジ進学。国際開発教育平和学 教育修士号を取得。卒業後は国連開発計画(UNDP)ニューヨーク本部勤務後、2012年国際金融公社(IFC)ワシントン本部に移り、人事官・上級人事官を歴任。2015年より現職。世界銀行グループにおける多才な人材育成、リーダーシップ・マネジメント開発を担当。現在は世銀総裁人材育成プログラム(Presidential Leadership Program)など、世界銀行における様々な人材育成に携わる。

第50回インタビュー 2018年5月1日

佐藤永子 世界銀行人事総局プログラムマネージャー(リーダーシップ&マネジメント) 

柔らかい語り口の中にも、何度か出てきた「Nothing to lose(失うものはない)」という言葉からもわかるように、芯の強さを感じさせてくれた佐藤さん。小さな頃からご両親の言葉を真摯に受け止め、模索した後にたどりついた、人と深く関わる仕事は彼女にとって天職なのだろう。日本人リクルートメントミッションをサポートするために佐藤さんが作成したという 世界銀行面接ガイド は、世界銀行の面接を受けた候補者からも「このガイドを見なければ自分は面接に対応できなかっただろう」と言われるほど実践に即した内容になっている。

開発への扉を開いた両親の言葉

高校生のときに、1年半ほど親の転勤でノルウェーのベルゲンで生活したんです。当時は英語もわからなかったんですが、インターナショナルスクールは首都のオスロにしかなかったので、現地の高校に入りました。いきなり全ての授業がノルウェー語だったんです。当時はノルウェー語と日本語の辞書がなかったので、常にノルウェー語と英語、英語と日本語の2冊の辞書を持ち歩いていた高校生活でした。ノルウェーは政府・地域をあげて人道支援に力を入れていて、現地高校のプログラムで週末に難民支援キャンプでノルウェー語や英語を教えるお手伝いをしたことが、開発への興味を持つきっかけになりました。

今思えば、小さな頃から両親にいつも「人の役に立つことをしなさい。限られた命をどう使っていくかを常に考えて生きていきなさい」と言われていた影響も大きかったと思います。「どういう意味なんだろう。じゃあどうしたらいいんだろう?」と考えながら思春期を過ごしていました。ノルウェーでの経験も踏まえて、「世界平和に貢献できる人になりたい」という思いがいつからか自分の中に芽生えていたんです。

その目標をどうしたら具体的に実現できるかを考えていたときに、ノルウェー出身のヨハン・ガルトゥング博士の本に出会ったんです。彼は平和学の博士で、「消極的平和=戦争がない状態」を平和とするのではなく、「積極的平和=貧困、抑圧、差別、構造的暴力がない世界」を構築することを提唱しています。世界平和の定義にはいろいろあることに気づきましたし、人は生まれる場所を選べないのに、生まれた場所によって運命が決まってしまうのは不平等だと強く思いました。でも人間には生きていこうという力がある。そういう人たちに、どうやって力を貸したら助けることができるか、希望に溢れる人生を構築できるかを考えて、平和学を勉強したいと思ったんです。でも日本に帰って高校を卒業して、平和学を勉強できるところを探したら、日本にはなく、ハワイ大学と、ニューヨークにあるシラキュース大学が学問として平和を扱っているとわかりました。父親に相談したら、ニューヨークは危ないから駄目、ハワイならいいよと言われてハワイに行くことを決めたんです。

「平和学」を学び「教育」の大切さを知る

Eiko Satoハワイでは修士まで平和学を学びました。その間に、日本の運輸省(当時)のプロジェクトで、太平洋諸島での災害リスク管理に関わらせていただいて、小さな島国を訪れる機会があったんです。そのときに基礎教育がいかに大切かということを実感しました。今後どういう方向性で平和を進めていけばいいかと思ったときに、人にいちばんインパクトを与えるのが教育だと思ったので、コロンビア大学のティーチャーズカレッジに進みました。博士号取得のために入ったのですが、担当の教授がルワンダに行ってしまって、やることがなくなってしまったんです。担当教授が戻ってくるまでの3年間、学生の身としてどうしよう?と悩んだのですが、「nothing to lose」の心構えで何もしないで帰国するよりは色々と挑戦してみようと思いました。それで、国連開発計画(UNDP)の空席ポジションを公募で見つけて応募してみたんです。

UNDPでの仕事

UNDPに応募後、幸いなことにトントン拍子で採用が決まり、2007年から2012年まで、人材開発の部門で本当にさまざまな経験をさせていただきました。最初は国連JPOの採用活動などに関わり、経験を積んだ後にアジア地域を任されるようになり、パキスタンとアフガニスタンを担当しました。遠隔で仕事をするのではなくて、現地に赴いて人事局のメンバーとして現地の事務所と直接仕事をしたので、現地への出張が多かったのですが、それがとてもよかったですね。現地に合った人材育成の方法をカントリーダイレクターと話し合い実行するというように、直接関わる機会がとても多かったので勉強になりました。
平和学、教育を学んできた中で、国連で働き始めてからは学問を追求するのではなく、実際に人と関わり、人に貢献するのが自分に合っているなと感じました。

IFCに入社し、世界銀行グループへ

UNDPに入って6〜7年がたった頃、そろそろキャリア的に違うことを経験したいなと思うようになりました。上司からは「とにかくいろんな機関を経験しなさい。その上でまた戻って来ればいい」と言われましたが、だからといって就職先を探してくれるわけではありません。自分でいろいろと探しているうちに、国連国際民間航空機関(ICAO)が採用してくれることになりました。ただ、ちょうど結婚し、主人がハワイからニューヨークに移ってきたタイミングだったので、その機関があるモントリオールに行くことについて迷いがありました。

そんなときに、IFCのリクルーターから「あなたのCVを見つけたのですが、あなたはこのポジションにぴったりだと思ったのでご連絡しました」というメールが来たんです。昔CVを送ったことはありましたが、特定のポジションに応募したことはなかったので、絶対に間違いだ!と思いました(笑)。でも「Nothing to lose」なので、IFCの友人に電話して本当にこの人はいるの?と確認したんです。そしたらちゃんといる、ということで安心して連絡を取り、採用過程を経て2012年に世銀グループであるIFCに入行したんです。

現在担当している仕事ですが、世銀の中でも1、2位を争うぐらいのベストな仕事だと思っているんです。というのも、幹部マネージャーや局長、副総裁など、世銀の中で幹部となる人材を育成する仕事なので、人と関わり、人がより成長していく姿を見ることができますし、「ここをこうしたらもっといいチームが作れる」と腹を割って話すことができます。
リーダーシップ開発プログラムは、プロフェッショナルな企業と協力しており、その人たちとも信頼関係を築くために話し合いながら仕事をしていますので、人との関わりが好きな人には特に向いている仕事だと思います。

国際機関で求められる人材像とは?

Eiko Satoこの仕事をしていて、最近は人間味のあるリーダーが求められる傾向があるなと感じます。やはり国際機関というのは多様性のある組織なので、日本人が得意な「言わなくてもわかる」「暗黙の了解」とは対極で、マネージャーとして、どのように話せば伝わるのかわかる、コミュニケーションの取り方に長けている、人の痛みを理解できるなど、エモーショナルインテリジェンスを開花させて、いろんな人を引っ張っていくことが求められますね。

国連と世銀では、やっていることは大きく変わらないんですが、やり方が違います。国連は雇用体系が違うので人の入れ替わりが激しく、個人対個人のネットワークを作り上げる時間があまりないと感じました。実感としては「自分対現地事務所」で仕事をしているという印象ですね。それに比べ、世銀ではリレーションシップベース、ネットワークベースで「自分対個人」で仕事をしているという実感があります。国際機関で求められる人材像は、大きく言えば組織のミッションとビジョンに個人的価値を重ねられる人だと思うんですが、世銀ではそれに加えて高い専門性、国連では即戦力やフットワークの軽さが求められる傾向があると思います。

実は、世銀での日本人の雇用を増やすことを目的として、外部の候補者向けに初めてオフィシャルな『世界銀行面接対策ガイド(WBG Interview Guide 2018)』というものを作りました。今まで面接でどういったことを質問されるかが、なかなかクリアにされてこなかったので、国際機関で求めている人材像や、どんな準備や練習をしていけばいいのかを明らかにするガイド本になっています。

日本人の特徴として、自分をどういう風にパッケージ化・ブランド化して話せばいいかを理解していない傾向があります。実際わたしが見てきた中でも、もう少し練習すれば…という人がたくさんいました。一例として、「WE」と「I」の使い方を意識したことがありますか? 面接官側としては、問題にぶつかったときに今までどのように乗り越えてきたか、その人がそれにどのように貢献してきたかということを知りたいんですが、「こういう問題があってこう解決しました」という話の中に「WE」ばかりがあって「I」がないと、主体性が感じられないと思われがちです。日本人は謙虚なので、自分をアピールしすぎじゃないかと心配する人が多いんですが、心配は要りません。ちょっとアピールしすぎたかな、と思うぐらいでちょうどいいんです。ちゃんと「I」を使って話すことを練習してみてください。

現在の業務と趣味

現在、世銀総裁がスポンサーをしている「世銀総裁人材育成プログラム」に関わっています。「人材こそが世銀の宝だ」ということで、11人のフェローのリーダーシップ開発をしていくという仕事なんですが、これを成功させることが当面の目標です。今後、世銀の未来を背負っていける人材を育成するというのが長期的な目標ですね。世銀に限定することなく、将来的に人材育成に関わる仕事にはずっと関わっていきたいなと思っています。

Eiko Sato2〜3か月に一度出張で、20〜25人ほどのマネージャーを連れてフィールドを訪れます。先日はコロンビアに行き、元ゲリラだったという現地のリーダーに会って話を聞きました。このように、普段なら絶対に会えないような人に会って話を聞き、各々に潜在するリーダーシップ能力をいかに有効に発揮し、優秀なリーダーとして様々な経験値を高め成長していくことの大切さを促すプログラムなんですが、普段オフィスにいると忙しい毎日なので、いいバランスだなと楽しんで仕事しています。マネージャーたちを「この人の元で働きたい」と思わせる人に育てるというのが、自分にとっての挑戦ですね。

仕事以外では、主人がハワイ出身で、主人の母親も住んでいるので3〜4カ月に一度ハワイに帰るようにしているんですが、それがいい息抜きになっています。

世界銀行で働くことに興味がある若い人たちへのメッセージ

日本人はとても勤勉で責任感も強く、言われたこと以上のことをこなそうとする優秀な人が多いんですが、それがときには悪く出てしまうこともあります。責任感が強いから他の人の仕事を引き受けてしまったり、自分を出さずに我慢してしまったり。国民性として、日本人は柔軟性を身に着けたらもっと強いと感じるので、よりフレキシブルに経験を積んで、自分をしっかりアピールしていくことを意識して欲しいですね。ずっと先まで将来設計をして、少しでも計画通りに行かなかったらもうダメだ、と諦めてしまうのではなく、2〜3年ごとにキャリアステップを考えるべきだと思います。

今求められている人材像は、フューチャリスティックビジョンがある人材。将来どんな風に自分の仕事を通して開発分野を切り開いて行こうか、という熱い情熱を持った人にぜひ来ていただきたいですね。若い頃だからできる挑戦があると思うので、臆せず新しいものにどんどん挑戦して、年齢を重ねてからでは積めない経験を積んで欲しいです。

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